作品について
私の美に対する考え方の一つとして、奥行きというものが大きな位置を占めている。奥行きへの探求は、ず
っと変わらないテーマである。かつてはキャンバス上でグレージングによるにじみやぼかしを使って表現し
ていたが、ここ数年は極薄の雁皮紙に画像を転写し、何枚も重ねることを試みている。重ねるごとに奥行き
と抽象性が生まれ不確かなものとなっていく。そこに興味を感じている。完成のイメージを持って取りかか
るものの、現像のプロセスにおいてはコントロールできない部分も多々あり、イメージが近づいては消え、
掴もうとすれば遠のいたりする。制作のプロセスがまさに霧と戯れているような感覚である。
作品で使用する画像はすべて樹形であり、ドイツで撮影したものである。特に冬の空を背景に見上げた樹々
の姿は、空中にドローイングしたかのように、生命に溢れ、繊細で有機的である。それは私にとって実に様
々なインスピレーションを与えてくれる。ドイツに足を運ぶ時期は、そのほとんどが冬である。街の喧騒を
後に郊外の森へ向かう。冷たい空気と静寂が広大な森を支配する。あたりはまるで時間が止まったような世
界だ。日照時間も短いため、日中でも夕暮れのような暗さと寒さが身を包む。時として深い霧に覆われるこ
ともしばしばだ。しかし、それを期待するかのように私は森に佇むのである。ひとたび霧となればそれはま
るで水墨画の世界に入り込んだとでも言おうか、その深遠な奥行きを視覚だけでなく体で感じることができ
るのである。これらの体験が私の作品に影響していることは間違いないと考えている。
9月吉日 小塚康成
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